「手探りって本来面白いことなんだ」極振り拒否して手探りスタート1巻を読んで

てさぐり【手探り】

  1. (見えない所を)手先の感じにたよって探ること。勘などをたよりに、あれこれと捜し求めること。

大辞林より

手探りって本来楽しいものだよなって実感した。

この感覚を思い返すのは大事だな、と思った。大人になって凝り固まった感性を一度リセットして、子供の頃に戻ったような感覚を戻すことができる。そんな大事なことに気づかせたくれた漫画がある。

それが「漫画極振り拒否して手探りスタート」だった。

この漫画はいわゆる異世界系漫画だ。ただ、良い意味で裏切ってくれる異世界系漫画だと思っている。

異世界系とは?←詳細はこちら

「小説家になろう」や「カクヨム」に投稿されているWEB小説のジャンルの1つ。
「現代の知識を持ったキャラクターが剣と魔法が使えるゲームのようなファンタジー世界に転生or転移して冒険する」という設定が様式美のようにテンプレート化しているのが特徴。
子ジャンルの主流として、「主人公最強(俺Tueee)」「追放(ざまぁ)」「モフモフ」「悪役令嬢」などがある(私の個人的見解)

この漫画のテーマは「手探り」だ。私は勝手にそう思っている。というかタイトルに手探りが入っているくらいなんだから手探りに決まっている。普通は入れない。

ちょっとタイトルに手探りが入っている作品を調べてみた。
検索ワードは「手探り」+「漫画」

Googleの1ページ目は全てこの作品で埋まっていた。やはり手探り漫画市場においては独占状態だ。

2ページ目で「公爵様の読書係 手探りの愛撫」という作品が見つかったが、これは「手探り」というより「まさぐり」の意味合いが強いので度外視する。

やはり手探りにおいてこの業界では圧勝だと言える。

このようなタイトル構想から見ても、非常に個人的な偏見だが、作者はなんというか⋯⋯ひねくれ数値が高い気がする。
とはいえアウトローではない。

漫画全体の展開はとても丁寧で、心理描写も細かい。でも芯の部分が捻くれている気がする。
勘違いしてほしくないのだけれど、これはベタ褒めしている。

話を「手探り」に戻す。

ではこの漫画のどの辺が手探りムーブ満載なのか?
それについて語りたい。

「冒頭」が手探り

主人公が異世界に転生され世界に降り立つまでを描いた冒頭の場面だ。
簡単に流れを説明する。

まず最初はテンプレ展開から始まる。様式美を裏切ることはままならない。

この漫画の場合、オンラインゲームをやりこんでいる人たちが、全く知らない異世界に転生される。
しかも大勢。そこに神らしき存在がいて混乱する転生者たちに指示を飛ばしてくる。

出典: 極振り拒否して手探りスタート 1巻 第1話より

いきなり集められた人間たちの焦り、憤り、混乱する様子が丁寧に描かれている。

その中に現世のオンラインゲームでパーティを組んでいた仲間を発見し、主人公たちは少し安堵する。

そして、「せっかく集まれたのだから最初のワープ先を同じ場所に選んでこの世界でもパーティを組もう!」という流れになる。
そりゃ知らない場所に一人っきりになるより、知り合いがいた方が安心に決まっているので満場一致でそうなる。

その後、ここでステータスをどういう方向にしようか?という相談になる。

出典: 極振り拒否して手探りスタート 1巻 第1話より

私はオンラインゲームをやらないので「極振り」という概念を知らなかった。極振りというのはパーティを組んで冒険する場合、ステータスをどの方向性に振り切るのか決めて、役割を全うする仕組みのことらしい。
簡単に言えば戦士なら力にステータスを絞って成長させろってことだ。

という感じで他の仲間が極振りを承諾していく中、主人公が急に違和感を覚え疑心暗鬼になる。
なぜなら、「パーティのリーダーが転生先を指定したから」だ。
やはりこの作者、安易なご都合は許さない主義か。

典: 極振り拒否して手探りスタート 1巻 第1話より

ここからダムが決壊したように今までの出来事の違和感が流れ込んでくる。
リーダーの言動の矛盾がきっかけで疑問は溢れ出るが、明確な答えはわからない。

出典: 極振り拒否して手探りスタート 1巻 第1話より

おかしいことは沢山あった
でもその中で
一番おかしかったのは
「僕が色々なおかしなことにここまで気づかなかったこと」
じゃないか?

おかしいのはマサさんではない!!
おかしいのは
「ここにいる全員」なんだ!!

全員無意識に「決められた方向」へ
誘導されているんだ!!!

この緊迫感、すごい好き。
転生ギリギリに重大なことに気づいて、ステータス画面からなんとか情報を探し出そうとする主人公のすごい生きている気がする。

特にここのページのセリフめちゃくちゃ生きたセリフだと思う。

出典: 極振り拒否して手探りスタート 1巻 第1話より

主人公は論理的思考を持つ頭の回るやつで、仲間との関係も蔑ろにしたくないけど、どこが芯がある少年ってことが分かる。
時間のない中で自分の選んだ選択を、説明できてないようでできている言葉選び。
個人的にめっちゃ好きなページ。

そうして、主人公はステータスをバランス型にして一人知らない場所にワープする。
正しく、極振りを拒否して手探りスタート、になった。

この冒頭の手探りムーブ時点で作品の雰囲気が分かる。

カタルシス重視でご都合よろしく主人公の活躍を軸にするのか?

それとも練り込んだ設定や世界観に浸ってしっかり異世界文化を楽しむのか?

この作品は圧倒的に後者に属する。
方向性自体は新しいジャンルではないが、とても心理描写が丁寧だ。

例えば、

いつの間にか知らない文字を読めて、知らない言語を発している自分たちに気づいた瞬間に、なんとも言えない気持ち悪さを覚える主人公たちが描かれた場面。

出典: 極振り拒否して手探りスタート 1巻 第1話より

いやそこの違和感に着目した描写初めて見たわ。

異世界転生者はとにかく問答無用で異世界語を話せて書けて読めるのよ。
そこに違和感を感じないのよ。
やはり、この作者はひねくれている。良い意味で。

そして、主人公の手探りな冒険は留まることを知らない。

ここからは1巻の手探りな冒険を簡単なダイジェストで少しだけ紹介したい。

「入り口」はいつだって手探り

村の入り口で緊張する。

出典: 極振り拒否して手探りスタート 1巻 第2話より

これはいい。
なんか実際のオープンワールド系のオンラインゲームだと、とりあえず奇行種のように走ったりジャンプしたりする。NPCの前をひたすらウロチョロするのだが、そんなことしたら普通に喧嘩案件だよね。
まさに手探りってそんな感じだよねって思った。

ひとりでオーセンティックバーのドアを開く瞬間のドキドキを思い出した、アレめっちゃ怖いよね。

ダンジョンはもちろん手探り

ギルドがありダンジョンがある世界。
地元の住人と手探りな会話をしながらなんとか気ギルドに所属してダンジョンの存在を知る主人公。
この辺からはまだ知らない新世界を冒険するワクワク感が溢れてくる。
主人公がまだ少年なのでその辺のリアクションが新鮮で良き。
そしてダンジョン。

出典: 極振り拒否して手探りスタート 1巻 第2話より

思慮深い主人公が十字路にぶち当た流のものなら

出典: 極振り拒否して手探りスタート 1巻 第2話より

怖いよねぇ。そりゃ怖いよ。
明かりのない場所で自分を殺すかもしれない未確認生物が潜んでいる場所、進める訳ないよね。
だって、現実では心霊スポットですら怖いのに。

ドラクエVのレヌール城を思い出した。あの死ぬ訳にはいかねぇんだよって感覚。
いつからかダンジョン内でセーブできないシステムがあるとイライラするようになっていた。
これは良くないよなぁ。
本来なら「帰るっ!!!」一択だよな。

人間関係だって手探りなんだ

魔物との戦闘や、他のパーティと知りあったりした主人公。

とあるパーティとのコミュニケーションでめちゃくちゃ手探りムーブしている場面。

出典: 極振り拒否して手探りスタート 1巻 第6話より

知り合いになったけど、いきなり二人っきりにされたらちょっときまずい奴いるよね、じゃないのよ。

でもこれあるよなーって思う。
ONE PIECEとかでもコイツとコイツって普段何話してるんだろ?って組み合わせあるし。

そういう人間関係も「手探り」としてしっかり見せちゃう徹底ぶり。

で、これが1巻のほぼ最後のやり取り。

手探りで始まり、手探りで終わる。
漫画の1巻としてはタイトルをしっかり回収している非情に味わい深いオチ。

そして、ちゃんと気になるフックが用意されている。

転生する時に別れた元パーティがめちゃくちゃ気になる

特にあのカノンとかいう女の子。紅一点だし。
この辺のやり方が戦略だったら相当上手いなぁ。

2巻も読む。